2015年2月22日日曜日
フィレンツェが注いでくれた新しい衝動
実は今回のイタリア出張、あまり自分に期待が持てなかったんです。日本での仕事が忙しすぎたのか何なのか、とにかく心が疲れ果てていました。再び元気を取り戻さなくてはならない。そういう意味では課題ははっきりしていました。まずは元気を取り戻すことでした。
今回フィレンツェを訪れてすぐに面白い事がありました。大友人の額縁職人Gabriele Maselli が、いつものように「早くこっち(フィレンツェ)に来て住めよ〜!!」と言ってきました。その後に新しい言葉がくっ付いてきました。「HAMADAどうだフィレンツェは?こうやって度々来るとだんだんフィレンツェも見える景色や印象が変わってくるだろう?どうだ?」正直びっくりしました。こういう事をガブリエッレから今まで言われた事が無かったからです。ガブリエッレのこの言葉からスタートしたこの度の滞在。まさにこの言葉が今回の滞在の意味を占っていたようにも思います。
今回の滞在で何かを変えなくてはならない。そんな漠然とした焦燥感がありました。仕事においても、ライフスタイル全般においてもです。仕立て屋を始めて今年で16年目。ようやく軌道に乗り出したかのように見える中、私の中で何かが無くなり始めているのを感じていました。それが情熱なのか、方向性なのか何なのか?日本での超多忙な日々の中で「忙」という字が語っているように、心を亡くして行っているのを感じていました。これは自分にとって大変厳しく、今まで何かしらの熱を燃料に前に進んできた自分としては熱が無くなってくると前に進めなくなってくるんです。それは洋服を作るときにも大きく影響します。当然、服作りには基本というものがあり、それに沿ってしっかりと仕事をすればある程度の品質までは行けます。情熱があろうが無かろうが、ちゃんとやれば一定の品質に仕上げる事は出来ます。なにせ16年もやってきたんですから。でもそのような、どこか冷めた思いで仕事を続ける事はこの種の仕事を続けていく上で大変辛いことです。ある種の熱が無くなると洋服作りにも迷いが生じてきます。迷うと自信が持てなくなって行きます。本当にこれでよいのか?どうすれば良いのか?考えれば考えるほど迷路の中に入っていくのです。
洋服作りにおいて私が考える角度は大きく2つあります。1つは当然技術面です。もう一つは感性とでもいうのでしょうか。作る洋服の方向性と最終的な仕上がりのイメージです。 最近の大きな課題はもっぱら後者の方でした。ある程度のものが作れるように成るまでは、技術面の勉強で手が一杯で感性どころではありません。でもさすがにこの業界に19歳から入って40歳にもなると、だんだん後者の方がキーワードになってきます。とはいえ、ここ数年はなんとかごまかしごまかしやって来れたんです。でもいよいよそうは行かなくなって、そろそろ真剣に向き合わないとどうしようも無くなってきたのを強く感じていました。この課題に向き合う為の時間。それが今回のフィレンツェ滞在の最も大きな宿題でもありました。 フィレンツェでこの宿題の答えを探していると、意外な展開に導かれる事になったのです。それは驚く事に第3の角度の発見でした。これは私を大きく驚かせたと同時に、静かでなにやら不気味で何か深い部分の衝動が私を襲ってきたのです。
滞在も今日で3週間が経過。残すところ後5日間。第3の角度がいったい何なのか?それがはっきりと見えたとは全然言えません。しかし確かに大きな感触がありました。第3の角度の発見に向けての「鍵」は、フィレンツェの至る所にありました。ある時は堂々と、ある時は少し隠されるように、そしてある時はジワーッと胸に沁みてくるように存在しました。滞在先のアパートから徒歩30秒の場所に有るイタリアで最も古い劇場に行き、素晴らしいピアノの演奏を聴いた夜も、フィレンツェの職人マエストロ達と話す中で、彼らの仕草や何気ない言葉の節々の中にも、散歩しながら眺める、人々が行き交うフィレンツェの日常生活の景色の中にも、キラキラと光るいろんな種類の鍵が有りました。それら壊れやすい鍵を見つけると丁寧につまみあげてポケットにしまい込み、アパートに帰りそっと取り出してよく観察する。そんな3週間だったように思います。途中風邪をひいてしまいベッドで横になっていた数日間も、キラキラ光る繊細な鍵を眺めながら想いを巡らしていました。こういった課題ははっきりとした答えが出る性質のものでは無いと思います。なんとなく自分の中でピントが合ってくるというか、自分の心がしっくりくるように成ってくる。そんな現象がこの手の課題の答えに近い状態だと思うのです。たしかに現在私は何かを感じています。第3の角度の発見への驚きと今まであまり感じたことの無い性質の畏怖と共に何かしっくり来るものを感じ始めています。そして今まで失いかけていた制作意欲といいますか、どういう物を作っていくか?という思いにもまた、少しずつ色づいて来るものを感じています。
今回のフィレンツェ滞在は、私の予想とは大きく異なり、思った以上の成果をもたらせてくれました。フィレンツェはまた大きな奇跡を私に注いでくれたように思うのです。第3の角度、あえて今の段階で言葉にするなら「オリジナリティー」とでも言うのでしょうか?そんな新しい衝動をたずさえて、もうすぐ日本に帰ります。
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